初めてあいつと出会ったのは、近所の食品小売店だった。
授業が終わって帰宅する途中、通学路に地元の人間が使うような小売店がある。
普段は目も向けないような場に、おばさん達の中にひとり男子高校生が浮いていた様を今でも覚えている。
まず思ったのはどこかで見たことのある制服だな、と。それで目を惹かれた。
そして、あの紺色はさっきまで目にしてはいなかったかと、その場に立ち止まった。思考する。
何のことはない、自分と同じ高校であったのだ。
何せその日は入学式で、制服に初めて袖を通したのだ。馴染みがなくともおかしくはないだろう。
まあこの際ついでにと顔を確認してみたら、それもどこかで見たことのあるような顔だった。
しかし既視感があるだけで思い出せない。名前どころか、どこで会ったのかも。
学校ですれ違ったのだろうか。
染めたのか薄い茶色い髪色をしていて、ゆるくパーマがかかっている。
たとえるなら今風の、おそらく自分からお近づきにならないタイプだな、というのが第一印象だ。
そんなものだから、小売店外に野菜やらが箱詰めされている場にひとりしゃがんでいる状況がいやにシュールだった。そしてどこか面白い。
柄にもなくなんだか楽しくなって、相手がこちらに気づかないのをいいことにしばらく観察していた。
そう言ってもものの一分くらいだ。
そのときの、あいつの表情の変わること。
ずっと難しい顔をして思案していると思ったら、すぐに思いついたように無邪気な顔をする。
そして視線をふらふらとさせてまた考え込む。(後に聞いたところ、夕飯の献立を考えていたとのことだった)
ガキか。そう思うと同時にそんな表情豊かなあいつがどこか羨ましくもあった。
いいかげん周囲に怪しまれるだろうと踵を返す。
そのときの、一瞬捉えてしまった顔。
ふいに、何か見つけたのか笑顔だった。
だから一瞬だけ、その口元からのぞく八重歯に目を奪われて考えるのを止めてしまった。
呆然、呆気。つまり呆れたのか。
たとえば物事を感じる気持ちをその場に落下させてしまったような、喪失感。
けれど空っぽでない、むしろなにかで満たされるような。
そんなものだから、せっかく気づかれないようにチラ見していたのに・・・気づいたらガン見だった。
そして気づかれてしまった。当人に。
お互いがぴた、と視線が混ざる。
しまった。
俺はといえば急いで目を逸らしてそこから立ち去ろうとしたのに、相手がそれを許さなかった。
「あれ・・・僕がプリントまわすひとだ」
前の席のひとだった。
